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いま、現場にある業務に寄り添う–––「地域包括ケアとテクノロジー」共生のポイントを探る

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、2日目に行われたセッション「地域包括ケア ~地域の担い手とテクノロジーの可能性~」の様子をレポート形式でお伝えします。

総人口に占める高齢者の割合が20%を超え、日本が「超高齢社会」になったのは2007年。病院や薬局、介護施設、自宅をシームレスにつなぎ、地域住民の暮らしを支えていくためのシステム構築がますます重要になってきています。多様なサービスが生まれてきている中、地域包括ケアにおけるテクノロジーの正しい活かし方とは何なのか?地域包括ケアの最前線でチャレンジを続ける先駆者たちの実践から、ヒントを探っていきます。

※セッション登壇者
・沼田 佳之(株式会社ミクス 代表取締役 兼 ミクス編集長)モデレーター
・馬場 拓也(社会福祉法人愛川舜寿会 常務理事)パネリスト
・杉浦 伸哉(スギホールディングス株式会社 取締役 株式会社スギ薬局 常務取締役 営業本部 本部長)パネリスト
・宮田 俊男(株式会社Medical Compass 代表取締役社長 大阪大学産学共創本部 特任教授)パネリスト
・川原 大樹(株式会社KURASERU 代表取締役CEO)デモ
・中尾 豊(株式会社カケハシ 代表取締役CEO)デモ
 ■目次


薬剤師とソーシャルワーカーを煩雑な業務から解放するテクノロジー

株式会社ミクス 代表取締役 兼 ミクス編集長 沼田佳之氏
株式会社ミクス 代表取締役 兼 ミクス編集長 沼田佳之氏

沼田佳之(以下、沼田):モデレーターを務めさせていただく、ミクス編集長の沼田です。
本セッションのテーマである「地域包括ケア」は、このHealth 2.0 Asia – Japanでほぼ毎年取り上げられています。今は新しいテクノロジーがたくさん出てきていますが、いよいよ実用化されてくる時代が来たなと感じています。今回登壇していただく方々は、「地域包括ケアシステム」の実現のために、さまざまな方面から挑戦をされています。

ディスカッションの前に、2社のサービスのデモをお届けします。まずは、KURASERUの川原さん、お願いいたします。

株式会社KURASERU 代表取締役CEO 川原 大樹氏
株式会社KURASERU 代表取締役CEO 川原 大樹氏

川原大樹(以下、川原):介護施設マッチングサービス「KURASERU」を運営しています、株式会社KURASERUの川原と申します。皆さん“退院”という言葉を聞くと、ハッピーなことだと思いませんか?でも、実はそうでない方もいます。退院しても在宅での介護が難しい方は介護施設を探さなくてはならず、急に退院と言われても困ってしまうんです。

「KURASERU」はそこを解決するためにつくりました。病院にいるソーシャルワーカーさんが患者さんの希望条件を入力すると、適した介護施設とマッチングします。介護施設側が、病院の退院予定者リストを見て患者さんに直接アプローチすることもできます。これによってソーシャルワーカーさんの煩雑な業務もシステム化され、業務量が10分の1以下になります。

沼田:ありがとうございます。続いてカケハシの中尾さん、お願いいたします。

株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中尾 豊氏
株式会社カケハシ 代表取締役CEO 中尾豊氏

中尾豊(以下、中尾):株式会社カケハシ・代表取締役CEOの中尾豊と申します。弊社の開発するサービス「Musubi」は、患者さんの疾患、飲んでいる薬、生活習慣、季節、過去処方などをもとに、服薬指導と生活アドバイスを自動で提案できる電子薬歴システムです。

これまで薬剤師は、服薬指導した患者さんの薬歴を手書きで記入する必要がありました。薬歴を記入する時間は、1枚あたり3分ほど。「Musubi」は、記入時間が30~40秒程度に短縮でき、処方箋を何万枚も抱えている薬局さんでは数千万〜数億円ほどの経済効果を生み出しています。

沼田:具体的に、患者さん一人あたりにかける業務負担が、どのくらい解消されるのでしょうか?

中尾:平均的に、1日30分前後の工数削減を実現しています。最近では「Musubiが導入されている薬局に転職したいので教えてください」と連絡がくることもありますね。残業時間の減少に伴い離職率が下がることで、採用コストが減ったという声もありました。

地域包括ケアの担い手になるのは誰か

沼田:続いて、ディスカッションに参りましょう。今後の課題は、地域の患者さんを、医療者あるいは介護者がどうつないでいくか。その際、テクノロジーは他業種間のコミュニケーションコストを下げてくれるのではないでしょうか。

本日のパネリストの方々は、「地域包括ケアシステム」の実現のために、さまざまなチャネルから挑戦をされています。まず地域社会に対してどういったアプローチを取っているのか、お話を伺いましょう。馬場さん、よろしくお願いいたします。

社会福祉法人愛川舜寿会 常務理事 馬場拓也氏
社会福祉法人愛川舜寿会 常務理事 馬場 拓也氏

馬場拓也(以下、馬場):馬場と申します。神奈川県愛甲郡愛川町で特別養護老人ホーム「ミノワホーム」を運営しています。私たちが老人ホームを運営するうえで大切にしているのは、地域住民の方々と日常的な交流を持つこと。“地域の担い手”というと、自宅に訪問する在宅医療・介護がフォーカスされがちですが、私たち施設運営者も、地域へと視野を拡張させていかなければいけません。スタッフには、利用者か否かにかかわらず、施設内外問わず、すれ違った方には挨拶をすることを基本としています。

沼田:ありがとうございます。視野を広げるというのは、まさに今日の大事なポイントでもあります。続いて杉浦さん、いかがでしょうか。

スギホールディングス株式会社取締役/株式会社スギ薬局 常務取締役 営業本部本部長 杉浦伸哉氏
スギホールディングス株式会社取締役/株式会社スギ薬局 常務取締役 営業本部本部長 杉浦伸哉氏

杉浦伸哉(以下、杉浦)スギ薬局を運営するスギホールディングス取締役の杉浦です。私たちは現在、日本全国に1,105店舗のドラッグストアを展開しています。

このドラッグストアを中心に、足が不便な方々なども含めてどう生活を支援していくか、というのが私たちがど真ん中でやっていることです。その中でも、私たちが今一番悩みながら関心をもっているのは「物流」です。薬の説明をするだけであればオンラインでも可能ですが、肝心の薬をどう届けるかというところが問題です。法規制もありながら、どうしていくかを模索しています。

沼田:アメリカではAmazonとドラッグチェーン「ウォルマート」が提携を結び、大きなニュースになりましたが、日本への影響もこれから出てくるかもしれませんね。続いてMedical Compassの宮田さん、いかがでしょうか。

株式会社Medical Compass 代表取締役社長/大阪大学産学共創本部 特任教授 宮田俊男氏

宮田俊男(以下、宮田): 株式会社Medical Compassの宮田と申します。市販薬・ヘルスケア用品の案内アプリ「健こんぱす」の運営・監修をしております。医師と薬剤師がコラボして開発した「健こんぱす」は、医療機関で受診すべきか、市販薬で対処できそうかセルフケアを支援するアプリです。

アプリを運営するなかで、医療には「医者ー患者」の関係性だけでなく、自治体や民間企業など、さまざまな職種が関わっていることを実感してきました。しかし現在、他職種との連携がスムーズにできているわけではありません。ITを活用し、いかに他業種とのコラボを行うかが、重要なトピックになると思っています。

「健こんぱす」を通じ、医師も関与したセルフメディケーションを推進し、医療機関にかかるべき疾患が見逃されないように支援していきたいですね。

「今ある業務」に寄り添う。テクノロジー浸透のポイントは現場に向き合うこと

沼田:宮田さんがおっしゃるように、介護や治療だけでなく、予防やセルフケアも地域包括ケアでは非常に重要になってきますよね。ビジネスチャンスも、「健康」や「生活」といった領域に見出していくべきなのかもしれません。

次に、地域包括ケアの現場でテクノロジーが介入するメリットをお聞きできればと思います。杉浦さん、いかがでしょうか。

杉浦:テクノロジーを活用するメリットは、「人 対 人」のコミュニケーション行為にリソースを注げるようになることだと思っています。私たちのコアは薬剤師ですが、やはり薬剤師と患者さんの「人 対 人」の部分の価値は感じます。電子薬歴でこれまで紙で記入していたものが電子化されたり、単純作業が大幅に効率化されれば、よりじっくりと患者さんと向き合えるようになります。

地域包括ケア ~地域の担い手とテクノロジーの可能性~

沼田:なるほど。中尾さんは、どうお考えですか?

中尾:医療現場にテクノロジーを導入するためには、まずは「今ある業務を効率化」してから「付加的なサービス」を入れていくことがポイントだと思っています。始めから付加的なオペレーションを導入できるほど、現場に余裕はありません。

沼田:ありがとうございます。宮田さんは、ケアの現場でテクノロジーが介入するメリットをどうお考えですか?

宮田:薬剤師や医師は網羅的な医療知識を持っていると思われがちですが、薬剤師は医療機関に受診勧奨するための知識は多くなく、医師はOTC医薬品に関する知識はかなり限られているんです。

一方で、患者さんのリテラシーも高いとは言えません。大都会ではかかりつけ医を持っている患者さんは必ずしも多くないですし、かかりつけ薬剤師を持っている人はさらに少ないです。AIやICTは、医師と患者さんの間に立つことで距離を縮めてくれるのではないかと思っています。

沼田:ありがとうございます。続いて馬場さんにお伺いします。実際の介護現場で働かれるなかで、現場にテクノロジーが浸透しないギャップを感じられることはありますでしょうか?

馬場:ギャップはありますね。介護士のなかには70歳近い方もいるので、その方々がスマートフォンの情報共有ツールを使いこなすまで、かなり時間がかかるなと思っています。

そこで、私たちはITのリテラシー教育をはじめています。時間はかかりますが、介護に関わる人、医療に関わる人が少しずつリテラシーを高め、10年後ににはテクノロジーが浸透している状態を目指していきたいと思っていますね。

沼田:なるほど。川原さんは、サービスを作り込むうえで工夫している点はありますか?

川原:弊社ではカスタマーサクセスチームを有識者のみで構成し、現場での違和感を減らすよう工夫しています。また、サービスを現場になじませるには、サービスをつくるだけでなく、実際に現場に出向いてオペレーションを一緒に回すというのも必要です。あとは、「既存のオペレーションをなるべく変更しない」ようにもしています。

一人ひとりのヘルスリテラシーを高める“装置”が、ケアシステムの構築へ導く

沼田:ここまで、地域包括ケアとテクノロジーが共生する方策についてお話を伺いました。最後に、テクノロジーを活用して地域包括ケアを進展させていくための課題について、それぞれお話を聞ければと思います。まずは馬場さん、お願いします。

馬場:多職種連携を促進させるのも大切ですが、医療福祉に従事している人びとが、住民一人ひとりの“健康意識”を高めていくことが必要だと感じています。医師と住民の方々が簡単に繋がれるようなシステムが生まれるのを期待したいですね。

杉浦:私は、地域包括ケアの完成形は「いかに高齢者の方々が健康であり続けてくれるか」だと思っています。そのために、自分の健康状態を把握するためのテクノロジーを、高齢者の方々にももっと受け入れてもらえるようになると、いい形で現場にテクノロジーが定着していくのかなと思っています。

中尾:ITだけで地域包括が完結することはありません。おじいさんおばあさん全員がアプリをダウンロードするのも難しいですし。ITはあくまでサブ的な位置づけで、医療従事者が患者さんと接するポイントをいかに価値の最大化をできるか、というのが、地域包括ケアを成功させるためのテクノロジーのポジションだと思っています。

地域包括ケア ~地域の担い手とテクノロジーの可能性~

宮田:私は、テクノロジーが持つポテンシャルを最大限に発揮していくために、大きく分けて2つの課題があると思っています。1つはスピード感を持つこと。他業界でクラウド・AI技術の導入が進んでいるのに、医療/介護の領域でまだまだ進んでいない。政府も実証実験を行っていますが、もっと当事者がスピード感を持たなければいけないと思っています。

もう1つは、市民のヘルスリテラシーを上げていくこと。定期的に医師と会う患者さんであっても、薬を飲んでいなかったり、根拠のない情報を真に受ける方がたくさんいらっしゃいます。先日、一般の方に「がんに効くサプリを教えて」と言われました。サプリだけでガンに効くはずがないのに、「テレビで言っているから」と信じてしまうわけです。情報発信によって、人びとのヘルスリテラシーを向上させる必要があると思わされました。

また、政府の規制改革もスピード感を持って進めるべきだと感じています。現在、厚労省は実証事業を進めていますが、電子化に向けた目処は立っていません。ベンチャーだけが先走らないよう、ルール整備を働きかけていかなければいけないでしょう。

沼田:これからテクノロジーによって、ますます地域包括ケアシステムの構造変革が導かれることが予想されます。医療の現場には、医師だけでなく技術者が立ち会うことが必要になるかもしれません。医療関係者とそうでない人びとが同じ土俵に乗り、オープンイノベーション型の環境で現場感のあるソリューションを生んでいくことで、医療が変わっていくのではないでしょうか。

来年のHealth 2.0でどこまで議論が進展しているか、非常に楽しみです。本日はありがとうございました。