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生涯医療費の70%が使われる、「要介護」期間を縮小するには?–––加齢に伴う身体・認知機能の低下に対峙するテクノロジー

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、2日目に行われたセッション「加齢に伴うフレイル・精神疾患」の様子をレポート形式でお送りします。

「高齢先進国」とも呼ばれる日本における喫緊の課題は、増大する医療費をどのように抑えるか。解決のためには、健康寿命を伸ばし、医療費が大きくなる「要介護期間」を縮めることが必要不可欠だと言われています。

今回のセッションでは、高齢者が健康を損ねる要因である「フレイル」と「認知症」へのソリューションをテーマに、国内外から専門家が集結。健康寿命を伸ばすための、それぞれのアクションが語られました。

※セッション登壇者
・上田 悠理 メドピア株式会社/Health 2.0 Asia - Japan 統括ディレクター モデレーター
・森谷 敏夫 京都大学名誉教授 パネリスト
・長谷川 清 株式会社NeU 代表取締役CEO デモ
・Mylea Charvat CEO & Founder (Ph.D.), Savonix デモ
・河越 眞介 株式会社トータルブレインケア代表取締役 デモ
・仁田坂 淳史 PLIMES株式会社 取締役CCO デモ
・山下 和彦 医療法人至髙会 たかせクリニック 地域医療研究部部長 デモ
 ■目次


「早歩き」するだけで、認知機能が向上

メドピア株式会社/Health 2.0 Asia - Japan 統括ディレクター 上田悠理氏、京都大学名誉教授 森谷敏夫氏
(写真左)メドピア株式会社/Health 2.0 Asia – Japan 統括ディレクター 上田悠理氏
(写真右)京都大学名誉教授 森谷敏夫氏

上田悠理(以下、上田):「Health 2.0 Asia – Japan」統括ディレクターの上田悠理です。このセッションのテーマは「加齢に伴うフレイル・精神疾患」。加齢とともに発生する精神的活力の減衰や、認知機能の低下をどのように解決していけばいいのか。医師や医療ベンチャーの経営者の方々から、意見をお伺いしていきます。まずは、骨格筋の専門家であり、京都大学の名誉教授を務めている森谷先生にお話を伺っていきましょう。

森谷敏夫(以下、森谷):森谷と申します。私は研究者として、骨格筋の研究を長年続けてきました。

近年のヘルスケア領域では、独立して生活を営める上限の年齢を指し示す「健康寿命」を伸ばすことが喫緊の課題だと言われ続けてきました。平均寿命から健康寿命を引いた年数が、健康を損ね、ケアを必要とする「要介護」の期間となるわけですが、日本人の要介護期間は男性が9年、女性が12年というデータが出ています。

また、「要介護期間」における約10年間で、一生のうちの医療費の約70%を使うとも言われています。高齢化によって医療費の増大が問題となる日本において、この期間の縮小は非常に重要な課題です。

森谷:高齢者が「要介護」になる要因は大きく2つあります。それは、「フレイル」と「認知症」。フレイルとは、骨や筋肉が衰え、寝たきりになってしまう状態のこと。認知症は、女性が「要介護」になる一番の原因と言われています。健康寿命を伸ばすためにも、この2つの要因に対するソリューションを考えていかなければなりません。

上田:ありがとうございます。私は最近、医師として在宅の訪問クリニックを開業したのですが、その中で認知機能に障害を抱えた患者さんにもよく出会います。認知症の改善に運動が効果的だという言説はよく耳にしますが、実際にはどの程度の相関があるのでしょうか。

森谷:最近のアメリカの研究では、有酸素運動によって筋肉から発生する物質が、記憶を司る海馬の動きを活性化することが判明してきました。意識的に早歩きをする「速歩」を1年間続けた高齢者のグループは、同年代のグループの海馬が平均で1%萎縮するのに対し、2%増大させることに成功したデータが出ています。

またアルツハイマー型認知症を発症した人びとのなかには、もともと糖尿病の患者さんが多かったことも、研究で明らかになっています。糖尿病の要因は、運動不足と高脂肪食の摂取過多です。

私の中では、認知症の予防に有効なのは、運動すること、高脂肪食を避けること、ストレスから身を守ることだと思っています。この3つをきちんと実行していけば、かなり高い確率で、発症を予防できるのではないでしょうか。

「飲み込み」に「歩行」。加齢に伴う機能低下を、AIが計測

PLIMES株式会社 取締役CCO 仁田坂淳史氏
PLIMES株式会社 取締役CCO 仁田坂淳史氏

仁田坂淳史(以下、仁田坂):PLIMES株式会社の仁田坂です。弊社では、嚥下(えんげ)計測のIoT機器「GOKURI」の研究、開発をしています。嚥下とは、食べ物を飲み込む行為のことです。

現在、日本の高齢者の中で死因の第3位となっているのが、気管に入ってしまった食べ物等を排出できず、肺炎を起こす誤嚥性肺炎。これまで嚥下の能力検査には、喉に聴診器を当てるといった、医師の経験則に基づいた診療が行われていました。対して私たちは、高齢者の嚥下機能をAIが正確に診断するIoT機器を開発することで誤嚥を予防し、一人ひとりが症状に合った食事を楽しめる世界の実現を目指しています。

「GOKURI」は首元に当てるセンサー型の機器ですが、スマートフォンで操作可能です。一定時間の嚥下の回数や、1回の嚥下にかかる時間を測定し、異常がないかを判断。計測したデータはクラウド上に蓄積され、嚥下音は波形で確認することもできます。波形によってデータが視覚化されることで、遠隔診療も実現できるのではないかと思っております。


医療法人至髙会 たかせクリニック 地域医療研究部部長 山下 和彦氏

山下和彦(以下、山下):たかせクリニックの山下和彦です。先ほど森谷先生からお話がありましたが、フレイルの予防に「歩く」行為は非常に重要な役割を持っています。しかし歩くためには、足が健全な状態でなければなりません。

日本には、外反母趾などの「足病」になるリスクを持っている人びとが2,000万人以上存在しています。また足部の問題が膝や腰にも影響を与え、関節疾患を患っている人も、2,000万人以上というデータが出ています。フレイルを予防するための「歩行」をする前に、足病のケアをすることが必要不可欠なのです。

そんな足病の不安を解消すべく、弊社ではスマートフォンを使って足の周りを撮影することで、足部の健康度を評価するシステムを開発しています。これまで、足病の多くは医師の目測によって診断されてきました。そこでAIが足の形状を計測する手法を実施することで、数値として足の健康度を出力。数値によってはっきりと結果がでるため、患者さんが危機意識をもって足病のケアに取り組んでくれるのも特徴です。

弊社は現在、3,000人以上の中高年、1,000人以上の小中学生の計測を行い、システムの有用性を確認しているところです。次のステップとしては、足病の悪化予防に繋がる靴、靴下、インソールなどの開発に役立てればと思っております。

高齢者が現実から目を逸らさないために。自分の認知機能を「正しく知る」ことから始まる

株式会社トータルブレインケア 代表取締役 河越眞介氏
株式会社トータルブレインケア 代表取締役 河越眞介氏

河越眞介(以下、河越):弊社では、5分で楽しく自分の認知機能の見える化を実現するチェック&トレーニングツール「CogEvo®」を開発しています。認知症の早期診断には記憶機能以外にも、多面的な脳の認知機能を測る必要があると言われています。そこで「CogEvo」では、専門家が考案した12種類のタスクを用意。記憶力以外に、注意力、計画力、見当識、空間認識力を測定するプログラムを提供しています。

本日はその12種類のタスクの中から、2つを紹介していきましょう。1つ目のタスクは「ジャストフィット」。真ん中に表示された図形と同じものを、周囲の6つから選択するものです。このタスクでは、多面的にものをみる「空間認識力」を測定します。

2つ目のタスクは「視覚探索」。このタスクでは、数字やひらがなを指示の通りに、素早く正確にタッチできるか否かで「注意力」を測定します。

こうしたタスクの結果は、五角形のレーダーチャートで表示され、直感的に認知機能の良し悪しを把握することが可能です。またタスクの継続率を向上させるために、幼児教育の支援ツールに関する専門家が開発に携わり、随所に褒めるコメントを入れるなどUIの面にも工夫を凝らしています。

現在「CogEvo」は複数の大学や医療機関における臨床研究結果から認知症の前段階の評価ツールとしても期待されています。介護施設でも認知機能を把握する指標として用いられ、個々人に最適化されたケアの開発にも役立てられています。

認知機能は病気だけではなく、加齢により衰えていきます。これからの日本人には、自身の認知機能の課題を知り、タスクに取り組むことで障がいの早期発見、予防をしていくことが求められていくのではないでしょうか。高齢者がまだまだ増えていくこれからの時代、弊社では「CogEvo」を社会の必須アイテムにしていけるよう、開発を進めていきます。

CEO & Founder (Ph.D.), Savonix Mylea Charvat氏
CEO & Founder (Ph.D.), Savonix Mylea Charvat氏

Mylea Charvat(以下、Charvat)Savonix社CEOのMylea Charvatです。私は現在、高齢者向けの認知機能テストのプログラムを開発しています。祖母がアルツハイマー病を患ったことをきっかけに、約30年間、認知機能の向上が私の研究テーマでした。

弊社ではAIを活用し、神経心理学に基づいた認知機能向上のソリューションを、より簡便かつ低コストに患者に届けることをミッションに据えています。たとえば、重症を負い文字を読むことができない患者さんに対しては、音声読み上げ機能でインストラクションを行うことが可能です。言語は英語、日本語、中国語に対応しています。

提供するソリューションは、私が神経心理学者として学んだノウハウを全て注ぎ込んだものになっています。具体的に測定する機能としては、集中力、注意力、短期記憶、遅延記憶、ワーキングメモリー、空間記憶です。患者さんにタスクを実行してもらうことで、脳がどの程度機能しているのか把握することができます。

私は、日本に認知機能のソリューションを根付かせるチャンスがあると感じています。なぜなら、先進国のなかでも高齢化が進んでおり、真っ先に取り組む必要があるからです。また、患者さんの家族の負担を考え、より簡便にソリューションを提供する必要があると考えています。

株式会社NeU 代表取締役CEO 長谷川 清氏
株式会社NeU 代表取締役CEO 長谷川 清氏

長谷川清(以下、長谷川):株式会社NeUの長谷川と申します。いきなりファンシーな格好で登場させていただきましたが、私の頭に装着しているのは、弊社が開発している脳計測デバイスです。従来ではMRIが備わった病院でしかできなかった脳計測を、手軽に実行できるウェアラブルデバイスを開発しました。現在では30gというサイズにまで小型化に成功しています。

弊社はこの脳計測デバイスを、認知トレーニングに活用していこうと考えています。これまでの認知トレーニングでは見ることのできなかった「脳の活動」を計測し、色の変化によって可視化。自分の脳をモニタリングすることで、トレーニングへの意欲を高める効果があるのではないかと思っています。また、CTOに「脳トレ」の監修で話題となった川島隆太氏を迎え、トレーニングの監修を務めていただいています。

脳計測デバイスによって個々人が自分の課題を把握し、パーソナライズされた課題を共有できるのは、非常に重要だと考えています。高齢者の認知機能の向上に貢献できるよう、これからも活動していきたいです。

パーソナライズの要諦は「デバイスの最適化」と「データの重み」

Health 2.0 Asia - Japan 2018_加齢に伴うフレイル・精神疾患

上田:認知機能に関するソリューションのデモをしていただきましたが、3社の共通点は、個々人の症状や環境を考慮に入れた「パーソナライズ」にあると感じました。各サービスで「パーソナライズ」されている点と、実際にどの年齢層の人がどこで使われることを想定されているのか、教えていただけますでしょうか。

河越:「CogEvo」の一番の特徴は、iPhoneやiPadなどのタッチデバイスで、時間や場所を問わずテストを実施したり、データを確認したりできることですね。1日の中の違った時間に測定することで、認知機能の変化にも気づくことができるのではないでしょうか。

また現在は理化学研究所と共同で、20〜60代の健常者のデータを1万人分集めています。データを集めることで、病気にかかることでどの程度認知機能が落ちるのか、相対的なデータとして役立たせることができると予測しています。

Charvat:私たちのサービスにおけるパーソナライズ化には、大きく2つあると考えています。1つは、スマートフォンやタブレット、電話など、各人がアクセスしやすいデバイスに対応していること。もう1つは、認知機能テストの結果を、「自分ごと」として認識させることです。

弊社では、レポートを一人ひとりに合わせて書くことはしていませんが、成人の場合には「認知スコア」を出しています。スコアの根拠として喫煙、食事、運動、アルコールなどの生活習慣を挙げ、利用者が診断結果に「重み」を感じてもらえるよう設計しています。

長谷川:Charvatさんがおっしゃったように、自分の脳の状態を把握させ、行動に繋げてもらうのが1つ。もう1つは、同じ課題を繰り返すことで、スコアが改善されるのに脳活動が活性化されない「鈍化」を避けることが挙げられます。鈍化を避けるためには、スコアだけでなく、脳活動も一緒に見ていかなければならない。脳計測デバイスの強みは、脳の活性度を見ることができる点にあると感じています。

最適なトレーニングを導き出せるのではないかと。これが我々の考えるパーソナライゼーションというところに繋がっていると思っています

上田:今回は、フレイル、認知機能における問題解決を目指す方々にお話を聞いてきました。印象的だったのは、「パーソナライズ」というキーワードと、生活習慣との関連性の高さ、それから患者さんが自分自身の状態を把握することの重要性です。最後に、森谷先生からコメントをいただけますでしょうか。

森谷:今回紹介していただいたデバイスの多くは、「予防」にフォーカスを当てたものでした。もちろん予防も重要ですが、機能の衰えが始まった患者さんたちに対するソリューションも、同じように重要だと感じています。予防と治療が両輪となることで、日本の「フレイル」「認知症」の問題は解決に向かっていくのではないでしょうか。