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生命保険の役割を再定義する。第一生命が口火を切る「InsTech」実現への展望

2019.06.27

Text By
半蔵門太郎
Edit By
小池真幸
Photos By
岡島たくみ
2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、1日目に行われた「Lunch & Learn: 第一生命のInstech取り組み」の様子を、ダイジェストでお送りします。

第一生命は2018年4月、渋谷とシリコンバレーに、「InsTech」(保険×テクノロジー)を活用したビジネスモデルを模索する場として「Dai-ichi Life Innovation Lab」を設置。2018年12月に発表された「認知症保険」では、ネットワークを活かし、日本の保険会社で初めてシリコンバレーのベンチャー企業との協業を実現しました。

第一生命の中山新氏は、InsTechの取り組みを「生命保険会社の役割の再定義」と位置付け、生命保険におけるイノベーション創出のために、社内外でのオープンなコミュニケーションが必要だと語ります。
 ■目次


押し寄せる少子高齢化の波。今こそ日本に「InsTech」の普及を

第一生命保険株式会社 営業企画部部長 兼 InsTech開発室長 中山 新氏
第一生命保険株式会社 営業企画部部長 兼 InsTech開発室長 中山 新氏

中山 新(以下、中山):第一生命保険の中山です。私は現在、テクノロジーと生命保険を融合させ、新たな保険商品・サービスやビジネスの創出を進める「Dai-ichi Life Innovation Lab」の室長を務めています。今回は、弊社が2015年に提唱した概念「InsTech」について紹介するとともに、取り組みを世界に先駆けて進めていくために必要不可欠な「社外との協業」についてもお話していきます。

少子高齢化が進む日本において、生命保険の新たな「役割」を創出することで、多様化するお客さまのニーズや人々のQOL向上に寄与できると弊社は考えています。保険会社の新たな役割とは、病気や死亡に際して保険金等のお支払いによってお客さまを経済的にお守りする「Protection」だけでなく、疾病を予防したり疾病を早期に発見するためのサービス、すなわち「Prevention」です。2015年には「Insurance」と「Technology」を組み合わせた新概念「InsTech」を提唱し、先端テクノロジーを活用しながらお客さまの健康増進に繋がる商品・サービスを開発しています。

まず、「InsTech」を世界に先駆けて進めていく必要がある理由をお話させてください。

弊社は創業以来、「お客さま」を第一に考え、チャレンジを続けてきました。1902年に日本初の「相互会社」(会社の配当を株主ではなく、契約者に還元するビジネスモデルを採用する、保険会社にのみ認められた会社形態)として会社を設立したのも、当時主流だった「保守的に保険料を設定し、剰余金は、株主に全て帰属する」ビジネスモデルに対する問題意識がありました。顧客に剰余金を還元できる相互会社であれば、より多くの人びとの幸福に寄与できると考えたのです。

2010年に株式会社に転じたのも、現代において「お客さま」を第一に考え、スピーディに事業を動かしていくために、優れているモデルだと判断した結果でした。2016年にはホールディングス体制に移行し、よりフレキシブルに事業を展開しています。

ビッグデータを用い、個々人に最適化された保険プランを

中山:InsTechで目指しているのは「新たな顧客体験の創出」と「生産性の向上」。この2つを実現するために、弊社ではヘルスケア、アンダーライティング、マーケティングを注力領域に設定しました。

InsTechは、煩雑な手続きのデジタル化をはじめ、利便性に優れ、シームレスなタッチポイントを実現します。さらにビッグデータを活用することによって、AIが個々人に最適化された保障を導き出し、よりお客さまの属性に応じた提案が可能になるのです。

歩数計測や生活習慣を記録するスマホアプリ「健康第一アプリ」をリリースし、ダウンロード数が90万を突破しました。このアプリは2019年1月よりかんぽ生命様向けにも提供を開始し、今後は法人向けメニューの開発等を通じて健康経営にも貢献していきたいと考えています。

前述した取り組みに加え、第一生命では2016年より、社内外の連携を通じてビッグデータ解析にも取り組むことで生命保険に加入いただける範囲を拡大しています。たとえば糖尿病等の健康状態を理由に生命保険に加入いただけなかったり保険料が割増となるケースがありますが、高度な分析の結果、そのような方々と健康な方々とで、入院や死亡などの可能性に差が少ない場合があることがわかってきたのです。

こうした取組によって基準を見直すことで、健康な方々と同じ条件で生命保険に加入いただけるお客さまが増加しており、直近1年間では22,000件以上(注:2018年度では約38,000件)の加入範囲の拡大に成功しました。

認知症を予防する保険、介助者の負担をケアする保険

中山:続いて、2018年12月18日より新たに販売開始する「認知症保険」について紹介させていただきます。現在、日本には要介護認定者が5年間で50万人増えているといわれていますが、その主因は認知症。要介護になる患者さんのうち、4人に1人が発症していると言われています。

弊社では、ニーズが拡大する認知症患者向け商品の販売開始に先駆けて、実際に認知症を患った方々やそのご家族にお話を伺い、どのような不安を抱えているのかを調査しました。その結果、認知症患者はご家族に負担をかけてしまうことを最も不安視しており、ご家族は、経済面だけでなく精神的、肉体的な負担への不安を感じている人々が多いことが分かったのです。

そこで私たちは、精神的な負担を軽減するプランを開発しました。まず経済面では、お手軽な加入料金に加え、認知症と診断されたときに発生する「認知症保険金」を用意しており、一時的な介護費用に役立てられる仕組みになっています。

そして精神面では、患者さんと、そのご家族の両者を補助します。患者さんへのケアとしては、加入する際の障壁をなくすために、4つの簡単な質問項目に答えるだけで健康チェックできる仕組みを構築しました。介助者であるご家族へのケアとしては、万が一の際にセキュリティ会社に連絡できたり、困ったことを専門家に相談できる窓口を設置しています。

また、認知症は発症すると残念ながら治療が困難な病気です。そこで、認知症の予防や早期発見を促進するために、複数のプログラムを用意しており、運動、脳トレ、食事をトータルでサポートしてくれるプログラムがあります。また、シリコンバレーのベンチャー企業・ニューロトラック社が開発する認知機能テストができるプログラムがあります。これは、目の動きを解析することで、認知機能をが低下しているかどうかをチェックするもの。チェックの2日後に、シリコンバレーの本社から結果が送られてきます。

このニューロトラック社との協業は、先ほど紹介した「Dai-ichi Life Innovation Lab Sillicon Valley」の取り組みとして行われました。日本の保険会社がシリコンバレーのベンチャーと協業したのは、これが初めて。今回の取り組みは、日本の保険業界にとっても大変意義深いものだと感じています。

テクノロジー導入に拘泥せず、「顧客第一」を忘れない

中山:今年度から、第一生命では渋谷、シリコンバレーの2箇所に「Dai-ichi Life Innovation Lab」を設置。本社とは独立した形で、イノベーションの創出を進めていきます。先述したニューロトラック社との協業成功に端を発し、PDCAサイクルをどんどん回していくつもりです。

この取り組みにおいて大事なのは、あくまでビジネスとして考えること。「先端テクノロジーを導入すること」に拘泥するのではなく、まず第一にお客さまへのメリットを考え、満足度の高い商品・サービスを提供できるテクノロジーを選んでいきたいと考えています。

またシリコンバレーだけでなく、国内においてもオープンイノベーションの促進を目指しています。その一例が、ビジネスコンテストの開催。かんぽ生命様とNTTデータ様と共催で、「ヘルスケアIT」をテーマに、お客さまの健康増進に裨益する保険サービスを募集していく予定です。

最後になりますが、第一生命グループは現在、かんぽ生命様と業務提携させていただいており、4,000万名を超える顧客基盤を持っています。これから「新たな生命保険の役割」を創出するために、様々なアイデアやテクノロジーが必要となりますが、私たちはそのアイデアやテクノロジーを広げる大きなリソースや顧客基盤を持っています。ぜひ私たちと一緒に、先端テクノロジーを駆使し、人びとのQOL向上に寄与していきましょう。本日はありがとうございました。

中山 新Shin Nakayama

第一生命ホールディングス株式会社 第一生命保険株式会社 営業企画部部長 兼 InsTech開発室長

1997年第一生命保険相互会社(現第一生命保険株式会社)入社。支社、官庁トレーニー、資産運用部門、経営企画部門等を経て、IT部門にてIT戦略・ITガバナンス・IT投資等を担当。2018年4月より、営業企画部部長兼InsTech開発室長(Dai-ichi Life Innovation Lab長)として、イノベーションの創出・推進をリード。