TREND

国内外のヘルステックの最新トレンドを知るための情報をお届け

ターゲットは35億人。巨大市場「フェムテック」は日本で盛り上がるか? –––女性医師が語る、課題と展望【川島恵美 × 上田悠理】

近年、あらゆる産業で盛り上げる「X-Tech」。その中で、地球上の35億人をターゲットにした超巨大市場が、テクノロジーを活用して女性特有の課題を解決する「フェムテック」です。

欧米では、フェムテック領域のスタートアップが相次いで資金調達をするなど、盛り上がりを見せていますが、日本国内ではまだあまり耳にしません。女性の社会進出が叫ばれて久しい昨今、フェムテックが日本で盛り上がりをみせるために、何が必要なのか。

そんな疑問を解消すべくお呼びしたのは、2人の女性医師。メドピア株式会社で「HIMSS & Health 2.0 Japan(旧 Health 2.0 Asia - Japan)」のCountry Director, Japanを務める上田悠理先生と、女性従業員を多数抱える大手メーカーで産業医を務める川島恵美先生だ。「医療、女性、ビジネス」の3つの視点を持ち合わせるお2人に、フェムテックの推進へ向けた課題や期待をざっくばらんに語っていただきました。性別が障壁にならない社会の実現に向けて、道半ばながらも少しずつ前に進んでいると実感できた対談の様子を、ダイジェストでお送りします。
 ■目次


海外で勢いを増す「フェムテック」。その実態とは?

–––そもそも「フェムテック」は、明確な定義があまり共有されていない印象を受けます。まず、海外の動きにも詳しい上田先生から、概要を簡単に説明いただけますか?

メドピア株式会社、「HIMSS & Health 2.0 Japan(旧Health 2.0 Asia - Japan)」Country Director, Japan 上田悠理
メドピア株式会社、「HIMSS & Health 2.0 Japan(旧Health 2.0 Asia – Japan)」Country Director, Japan 上田悠理先生

上田悠理(以下、上田):「フェムテック(Femtech)」が最初に登場したのは、2013年ごろ。月経管理アプリ「Clue」を開発するドイツのスタートアップのCEO、アイダ・ティン氏が提唱したと言われています。初期は生理や妊娠に関連するものが中心でしたが、少しずつ領域を広げていき、女性のメンタルヘルスや閉経、更年期障害、セルフプレジャーなど、包括的な「女性の健康」をケアするサービスを指すようになりました。

また、フェム“テック”と言いつつも、必ずしも最先端のテクノロジーを応用しているわけではなく、女性の健康に寄与するビジネス全般を包括しています。例えば、アメリカのスタートアップ「cora」は、生理用品のサブスクリプションサービスを提供している会社ですが、「フェムテック企業」として高い知名度を誇っています。

今後、フェムテック市場は加速度的に拡大していき、2025年には5兆円規模の市場になるのではないかと言われています。ますます目が離せなくなっていくのではないでしょうか。

–––産業医として働かれている川島先生は、近年の「フェムテック」の拡大についてどのようにお考えでしょうか?

産業医 川島恵美先生
産業医 川島恵美先生

川島恵美先生(以下、川島):実は、この対談のお話をいただくまで、フェムテックのことをあまり知りませんでした。海外では大きなムーヴメントとなっていますが、日本では、アンテナを張ってビジネスや医療の情報を集めている方以外にとっては、あまり耳馴染みのない概念なのだと感じています。

海外の月経管理アプリも使ってみましたが、欧米人に合わせたUIで選択する項目も日本ではメジャーではない物も多く含まれており、日本人にはまだ馴染みにくいのではないかと感じました。これから、国内でフェムテックが浸透するなかで、日本に「ローカライズ」されたサービスが必要になってくるのではないでしょうか。

–––川島先生は、女性としては珍しい「産業医」というキャリアを歩まれています。産業医として、フェムテックに期待していることはどのようなことでしょうか。

川島:デバイスの発達により、生理や更年期障害によるプレゼンティズム(※出勤していながらも、体調やメンタルの不調が原因で、パフォーマンスが低下している状態)が認知されることで、より女性が働きやすくなる環境を構築できるのではないかと思っています。

また、身体の状態が可視化されることで、女性自身も自分で身体をマネジメントをすることが可能になるでしょう。例えば、メンタルに不調を感じているとき、PMSなのか、仕事によるメンタルの不調なのかは、その場だけでは判断できません。しかし、仕事によるストレス負荷や生理周期のログをつけて、「どんな時に症状が出ているか?」と分析することで、原因を特定できるたり、対処がしやすくなったりします。

上田:フェムテックと聞くと、直接的に女性の身体の負を解消すると思われがちですが、「可視化」されるだけでも、状況は大きく変わります。ログを積み重ねるなかで「どの時期にどの程度辛くなるのか」が判明すれば、仕事を調整することも可能ですから。

川島:もう1つ、フェムテックに期待することは「女性に最適な病院とのマッチング」です。女性のなかには、婦人科の検診で強烈な痛みを経験し、病院に行くのが怖くなってしまうひとが一定数います。産業医として働くなかでも、「痛みを気にかけて、優しく対応してくれる病院はどこですか?」と聞かれたりします。病院の特徴や診察料などを網羅的にまとめたものがあれば、今よりも最適な病院が自分で選べるようになるのではないかと思います。

上田:女性に限らず、「医師と患者のマッチング」はテクノロジーによってどんどん変化していくと思っています。例えば、オーストラリアの医療ベンチャーでは、医師が隙間時間にオンラインでの診療枠を提供できるサービスを配信しているのですが、診察料は病院が自由に設定し、値段に納得した患者が利用します。

医師が価格を提示し、患者が納得して利用することで、市場経済が働き、これまで以上に積極的に、患者さんの健康に対して取り組むようになります。対する患者さんも、医師のサービスに対して「食べログ」のようにレビューをつけることが可能。値段からサービスの質まで、医師、患者さんの双方が納得できる医療のあり方が、テクノロジーによって実現しようとしています。

なぜいま「フェムテック」が盛り上がっているのか

–––いま「フェムテック」が盛り上がりを見せているのはなぜなのでしょうか?

上田:「#Metoo」運動など、SNSを中心に女性の「声」が伝わるようになってきたことが、ひとつの要因だと思います。その背景には、女性の社会進出をサポートしなくてはいけないという風潮も。実際に、アメリカの臨床試験においても、男女の身体的な違いについてより考慮されるようになっています。これまで、女性のデータについては、臨床試験の期間中に月経・妊娠など離脱する場合の扱いが難しかったため、データとして重視されてきませんでした。しかし、男女等しくデータを収集するように変わってきています。

川島:産業医として働くなかでも、少しずつ女性の声が反映されているのを実感しています。近年では多くの企業が「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」の認定を目指し、社員の健康増進に取り組んでいますが、昨年から、選定の指標のひとつに女性のケアに関する項目が入ったんです。

–––あまり知られていない事実ですが、社会の流れとしても確実に前進しているんですね。

川島:はい。ただ、会社が色々な制度や施策を行っても、一人ひとりのリテラシーが低い状態では、女性の活躍の障壁となってしまいます。現在、SNSなどで性差へのリテラシーを高める機運が高まっていますが、「じゃあ何をすればいいのか?」がわからない人が多い。リテラシーを高めるための具体的な「HOW」が増えてほしいと思っています。

–––今後、日本でもフェムテックビジネスは盛り上がりをみせるのでしょうか?

上田:国内でフェムテック領域の起業家は増えてきていますが、まだまだ少ないのが現状ですね。このままでは、国内でサービスが生まれるよりも先に、海外の商品が流通する状態になるかもしれません。でも、フェムテックに対して課題感を持っている日本の大手企業も多く存在しているので、一気に新しい商品が誕生することも考えられると思います。

フェムテック推進のために、明日からできること

–––今後、「フェムテック」が日本国内で盛り上がりを見せていくために、お二人が期待することはどんなことでしょうか?

上田:フェムテックの上位概念である「ヘルステック」が登場したのが、いまから10〜15年前。加速度的にデバイスが改善され、大量のデータが集まり、革新的なソリューションが生まれてきました。これから、もっと素早いスピードで、あらゆる分野のソリューションが生まれてくることでしょう。フェムテックにおけるイノベーションも、そう遠くない将来に訪れるはずなので、非常に楽しみですね。

川島:先述したように、一人ひとりのリテラシーを高めるサービスの登場に期待したいです。例えば、法律で定められている健康診断のチェック項目を見ると、働く世代の男性がなりやすい生活習慣病予防の項目はカバーされていますが、女性特有の疾患はカバーされていない現状があります。昔は働き手は男性中心であったため対応できていたかもしれませんが、働く女性が増えた今、現状のままではカバーしきれていないのではないかと思います。

上田:女性特有の問題はなかなかオープンにしにくいという風潮もあるので、日本でフェムテックが広まっていくためには、女性らしさも持ちながら女性の問題を発信できる「オピニオンリーダー」となれる人が必要なのかもしれません。

–––最後に、フェムテックを次に進めるうえで、明日からできることを教えてください。

上田:男女問わず、「まずは1回使ってみる」ことをオススメしたいです。例えば不妊治療ですと、カップルで並行して使用するアプリがリリースされています。使ってみてお互いをより深く知ることはもちろん、コミュニケーションのきっかけにもなるのではないでしょうか。

川島:テクノロジーが生活に溶け込んでいくとはいえ、まだまだ新しいデバイスに恐怖感を覚える人は多いと思います。もし、好奇心からフェムテックの製品を使ってみた人がいたら、「こんなところが良かった、ここは私には合わなかった」など、発信してほしいですね。身近なひとが使っている安心感から使用者が増え、どんどんフェムテックが浸透していくことを、期待したいと思います。

川島 恵美Megumi Kawashima

産業衛生専門医、社会医学系専門医、労働衛生コンサルタント

産業医科大学卒業。初期研修終了後、滋賀医科大学産科学婦人科学講座にて後期研修。「就労女性の健康を産業医の立場から支援したい」という思いから産業医の道へ。産業医科大学産業医実務研修センターで修練した後、2014年から都内で産業医として従事。

上田 悠理Yuuri Ueda

メドピア株式会社/HIMSS & Health 2.0 Japan Country Director, Japan

早稲田大学法学部を卒業後、岡山大学医学部に編入し医師免許を取得。形成外科・訪問診療医として、在宅高齢者の褥瘡管理に携わる。臨床を継続する傍ら、2017年4月よりヘルステックのグローバルカンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan(現 HIMSS & Health 2.0 Japan)」の統括ディレクターに就任。臨床現場で感じるニーズと、テクノロジーで可能なこととの間に大きな隔たりを感じており、この壁を破壊するべくHIMSS & Health 2.0 Japanを推進している。