TREND

今を見つめる

第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから(前編)【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】|イベントレポート

2017.06.05 9:55

TEXT BY
長谷川リョー

TAGS

MHA1 ロボティクス 手術
  • シェア
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「ロボティクス×医療の”今”をつかみ”未来”をつくる」をテーマに2017年3月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter1」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、宇山一朗氏(藤田保健衛生大学教授)による「消化器科外科領域におけるロボット支援手術の現状と展望」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

日本における内視鏡手術支援ロボット導入・実用の第一人者である宇山一朗氏。30年以上医療に従事しながら、いち早く日本において「ダヴィンチ」を導入し、実績を挙げてきた。いかに手術における低侵襲化(手術・検査などに伴う痛みや発熱、出血などをできるだけ少なくする)を進めるかを念頭に、ロボット支援手術の現状と展望について語っていただいた。

手術は侵襲(しんしゅう)の科学である

今日は内視鏡手術支援ロボットに関してお話させていただきます。まず私が所属しています藤田保健衛生大学についてご紹介しますと、病床数が1,435床に及ぶ日本でもっとも多いベッド数を誇る病院です。年間の手術件数も1万2千件を超え、最先端医療を目標とした地域の私立大学の中核として頑張っています。

私は2008年頃から約8年、内視鏡手術支援ロボットを用い、人間の手でできる限界を超えた精緻な手術を行ってきました。手術支援ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」をご存知の方も多いかと思いますが、このロボットを用いることで1円玉ほどの大きさの正方形の折り紙を折ることが可能です。普通の折り紙ならば人間でも可能ですが、これほど小さいサイズでの折り紙は困難を極めます。こうした精緻な作業を手術に応用することを試みるのが、ダヴィンチに他なりません。

私は1985年に医学部を卒業し、外科医になり、これまで30年ほど医師として従事してきました。当時の医療でよく言われたのは、「The Great Surgeon, the Big Incision(偉大な外科医こそ大きな術創で!)」ということです。

ただし、この思想だと腹壁の破壊が激しく、体に対して非常に大きな侵襲(しんしゅう)を加えていたことになります。たとえば、術後に絡んだ痰を吐き出そうとすれば、腹筋を使う必要がありますが、傷があるとお腹が痛むので、痰を出さずに飲んでしまう患者さんがほとんどです。しかしそうすると細菌性の肺炎が生じたり、様々な手術の合併症を併発してしまうのです。


(本記事内のスライド資料の権利はすべて藤田保健衛生大学に帰属)

上記は私が新人だった頃に恩師から教わった図ですが、手術というのは交通事故に遭うくらいの大怪我であり、手術をした後は必ず一時的にでも健康状態が悪くなるということを表しています。その後の回復カーブは状況によりますが、「手術は侵襲の科学であり、これを十分肝に銘じて手術しなさい」というのが恩師のメッセージでした。

腹腔鏡手術が解決したこと、できなかったこと

それから年月が経ち、20年ほど前に日本にも内視鏡手術、腹腔鏡手術というものが導入されていきます。手術の侵襲自体を小さくできないかということで始まった学問です。

「低侵襲化」を簡単にいえば、少しでも体に優しい手術をするというコンセプト。私はがんを専門にやっていますので、がんを例に挙げます。

胃がんであれば臓器を切除する必要があるわけですが、そこでは少しでも切除する範囲を縮小するという考えがもちろんあります。それをどれだけ小さくできるかは、がんの進行度と大きさに依存するものなので、調整するのは難しいのが現実です。しかしながら、腹壁の破壊は小さくできるのではないかということで始まったのが腹腔鏡手術です。

以下は、実際の腹腔鏡手術の傷跡ですが、ほとんど傷跡は分かりません。これは退院時ですが、半年もすれば傷は見てもほとんど分からない具合になっているでしょう。

腹腔鏡手術について少し説明をしますと、まずお腹の中に炭酸ガスを注入し、腹壁と腹腔内臓器の間に空間を作ります。そして、この閉鎖された空間を利用して手術を行います。空間に腹腔鏡(胃カメラを小型化したもの)を挿入し、腹腔内をモニターに映すことにより術野を確保し手術します。

しかし腹腔鏡手術にはいくつかテクニカルな問題がありました。当時2-D画像による立体感の無さ、関節機能の欠如、画面のブレ、手振れなどです。それにより、より難易度の高い手術においては、がん治療を小さい傷で行う困難性がつきまとってきます。

腹腔鏡手術では、開腹手術と同等の安全性と根治性を担保した上で、小さい傷で手術をしなくてはなりません。ということは、難しい手術をやればやるほど、これらの欠点を補う必要が出てきたのです。群馬大学で問題が起こったのも、そうした問題点を克服できないのに、より難しい腹腔鏡手術を行っていたためです。

手術において、外科医として技術が必要なことは当たり前です。絶えず勉強をしなくてはなりません。しかしそれでもやはり、ヒューマニティ(人間性)は必要であり続けるでしょう。

それでもそれだけでは低侵襲化についていくことはできません。イノベーションやテクノロジーを取り入れるか、もしくはひたすら練習して技術を上げていくしかないわけです。しかし後者は職人芸的なもので再現性に乏しいため、標準治療化にはなりません。

そこで我々が導入したのが内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」です。ダヴィンチはIntuitive Surgical社が作っているものですが、「Intuitive Surgical」とは「直感的手術」という意味です。社名に掲げているほど、直感的に扱えることにこだわって作られた手術支援ロボットというわけで、使ったときからかなり直感的に扱えるのが特徴となっています。

ダヴィンチが手術にもたらしたイノベーション

ダヴィンチのシステム上の利点をいくつか挙げると、正確な3-D画像、多関節機能、Tremor filtering(手振れ防止)機能、画像の安定性、Motion scaling(術者の手の動きをスケーリングする)機能、10~15倍までの拡大視効果があります。これらによって、腹腔鏡手術で課題だった点がかなり克服できます。

たとえば膵臓(すいぞう)の手術を例にとってみましょう。通常の膵管であれば2mmほどですが、これを腸と縫い合わせる必要があり、これが非常に難しい。縫ったところに不具合があって膵液がお腹の中に漏れると、非常に重篤なことになってしまいます。

これは実際に私が行った手術の映像ですが、右利きの私でもダヴィンチを使うと手振れもしないため、左手でも縫うことができます。また、Motion scalingの機能があるので実際にはもっと大きくラフに動かしていても、ロボットの手先は細かく動いてくれますし、関節機能もあるのでちょっとした手首の動きも可能です。

こうした難しい手術においては、自分の手や腹腔鏡手術でやるよりも、ロボットの方がかなり精密に手術できるんですね。

2009年の4月~2012年12月で実施した胃がん手術において、合併症が発生した割合をロボット手術をと腹腔鏡手術で比較したことがあります。すると、ロボット手術で行った場合、旧来までの腹腔鏡手術に比べて1/5ほど合併症が減っていました。

ダヴィンチ自体は1999年から市場に出ていましたが、日本はしばらく導入から取り残されていて、本格的に導入されるようになったのは2009年頃です。そのきっかけになったのが薬事法です。2009年11月に、薬事法という医療機器の安全性を認可する法律でダヴィンチが認可されたため、導入が進みました。

  • シェア
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

宇山 一朗Ichiro Uyama

藤田保健衛生大学医学部総合消化器外科学 主任教授
藤田保健衛生大学病院総合消化器外科 診療科長

1985年3月に岐阜大学医学部を卒業し、同年4月に慶應義塾大学外科学教室に入局。その後、練馬総合病院外科、国家公務員等共済組合連合会立川病院外科、慶應義塾大学外科学教室助手、練馬総合病院外科医長を経て、1997年に藤田保健衛生大学医学部外科学 講師に就任。准教授を経て、2006年5月に主任教授に就任。2015年9月に藤田保健衛生大学病院 総合消化器外科 診療科長、2016年6月に藤田保健衛生大学医学部総合消化器外科学 主任教授に就任し、現在に至る。2009年に国内初の手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使用した胃がん手術を成功させ、日本における腹腔鏡手術のパイオニアとして、最先端のロボット手術の現場とその普及拡大に取り組む。

RECOMMEND

オススメの記事