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第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから(後編)【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】|イベントレポート

2017.06.16 14:10

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長谷川リョー

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MHA1 ロボティクス 手術
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「ロボティクス×医療の”今”をつかみ”未来”をつくる」をテーマに2017年3月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter1」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、宇山一朗氏(藤田保健衛生大学教授)による「消化器科外科領域におけるロボット支援手術の現状と展望」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

日本における内視鏡手術支援ロボット導入・実用の第一人者である宇山一朗氏。30年以上医療に従事しながら、いち早く日本において「ダヴィンチ」を導入し、実績を挙げてきた。いかに手術における低侵襲化(手術・検査などに伴う痛みや発熱、出血などをできるだけ少なくする)を進めるかを念頭に、ロボット支援手術の現状と展望について語っていただいた。

前編では、交通事故に遭うくらいの大怪我を負うことに等しいという「手術」において、「ダヴィンチ」がどんなイノベーションをもたらしたのかについてのお話をお届けしました。後半では、さらに進化を続ける「ダヴィンチ」の機能や、日本でロボット手術が普及するための課題や期待についてお届けします。

前編はこちら:「手術は侵襲(しんしゅう)の科学である」

ヒト以上の進化を続けるダヴィンチ

最新の「ダヴィンチXI」では、様々な改良が加えられています。これまではマニュアルで各々を調度いい角度にセッティングする必要がありましたが、最新器ではオートで設定をしてくれる。用途に合わせてボタンを選ぶことで、それに合わせた自動設定をしてくれます。ターゲットの臓器に最適に、かつ干渉しにくいように自動でセッティングしてくれるようになったのです。さらにこれまでは近接にしたり遠景にしたり、カメラのフォーカスを自分で合わせる必要がありました。新しいダヴィンチのシステムではオートフォーカスではなく、もともとフォーカスフリーということで、フォーカスそのものがありません。

もう一つの特徴は「ベッセルシーラー(Vessel Sealer)」です。昔は糸で縛っていたものを、電気メスで血管をシーリングします。血管の抵抗値をコンピュータが読み取り、シーリングできるようになると、刃が走って切れる。おまけに関節機能を持っているので、自由に曲がりながら操作できるのです。

あとは腸管を切るためのステープラーですが、これまでは厚みによってホッチキスのサイズを選ぶ必要がありました。つまり術者の感覚で行っていたのですが、コンピュータが臓器の厚みを感知し、安全な域までしっかり圧縮しているかどうかを測定してくれます。測定した上で切るという画期的なシステムがダヴィンチの中に入っているのです。

上記は「ダヴィンチSP」と呼ばれるもので、クワガタのような形状になっていますが、カメラも曲がるようになっています。藤田保健衛生大学ではダヴィンチ専用ルームを作っており、トレーニングも行えるようになっています。手術は必ず徒弟制度ですが、ダヴィンチは教育システムにも優れているので、技術の伝承がしやすい。通常の場合だと患者さんの不利益にならないように伝えていくのは非常に難しいのですが、その点、ダヴィンチはかなり貢献しているのではないかと思います。

弱った肺に触れない食道がん手術

食道がんについてもお話させてください。食道がんは非常に大きな手術で、開胸手術といって、これまでは胸を切っていました。開胸機にかけ、無理やり肋骨を折って広げていたんですね。これをまた元に戻さなければならないため、食道がんの手術は非常に痛いわけです。それを回避するために胸腔鏡手術では、肋骨と肋骨の隙間に穴を開けて手術を行います。肺がんも同様ですが、この方法で傷はかなり小さくて済むのです。

皆さんはたばこというと肺がんを想像するかもしれませんが、実は食道がんは肺がん以上にたばこと関係が強く、圧倒的に喫煙者の方に多い病気です。つまり食道がん患者は呼吸機能が弱い方が多いので、肺への負担を少なくするために胸をまったく触らないで行う手術も最近考えられてきました。「非胸腔アプローチ食道切除術」と言われており、最新のダヴィンチXIでもシミュレーションが行われています。

我々もダヴィンチXIを使ったシミュレーションを行いました。肺に触れずに手術を行うために首から穴を開けて入れてくのですが、最新のダヴィンチXIは昔の型と違ってアームが細く繊細な動きができるため、それが可能となりました。中の画像がこちらです。食道がんが転移しやすいリンパ節を切除しなくてはなりませんが、その際に2mmとない神経に触らずに手術を行う必要があります。少しでも触ってしまうと麻痺が起こり、声帯が動かなくなってしまうからです。こうした繊細な作業は、拡大視が可能なロボットを使わないとなかなか安全に行うのは難しいのです。

「ロボットは単なるツール」日本発のロボットの誕生が待たれる

現在日本では約250台のダヴィンチが導入されています。世界で100台以上持っている国はアメリカと日本だけです。つまり、日本ではロボットの導入が進んでいるんですね。対して、台数あたりの執行症例数はあまり多くないのが現状。なぜならば、前立腺全摘と腎部分切除以外の保険収載がないためです。保険収載されていないということは、自費診療で行うしかありません。胃がんに関しては2年前に先進医療というものが認められましたが、現在
は先進医療は終了しました。

保険会社の方でも誤解されているケースがあるのですが、「先進医療」というのは何もずっと先進的なことができるということではありません。一定期間のうちで評価し、保険収載に値するかどうかを評価するシステムなのです。決して先進的な治療を安く患者さんに提供するということではない。胃がんに関しては2年間で330例あるので、そのデータを今解析しているところです。解析の結果、本当にロボットは胃がん手術に医療経済上合理的なのかどうかを判断されるということです。もしも合併症が減れば、入院期間は短くなるので、医療費は安くなるわけです。ご存知のように健康保険の改正は2年に1度で、次は来年です。そこで保険収載になる可能性はありますが、まだなんとも言えないのが現状です。

また、現在は一社の独占状態ですので、ロボットのコストを下げていくためにも日本発のロボットが待望されます。2〜3年後には日本製が出てくるのではないかと予想しています。安全性の担保も必須なので、我々の大学ではダヴィンチ低侵襲手術トレーニングセンターを開設しています。

ここまで消化器外科領域におおけるロボット支援手術の現状と展望についてお話してきましたが、今後もお腹を開ける手術は絶対になくならないでしょう。それが必要な手術は必ずあるからです。しかしながら、コストの問題さえ解決されれば、通常の穴を開ける手術はすべて内視鏡手術支援ロボットを使った手術に取って代わられていくでしょう。そして私が思うのは、ロボットとは単なる手術支援ツールに過ぎないということです。ロボット手術というカテゴリーに分けるのではなく、単なる便利な手術ツールという認識を持つことで、今後より普及が進んでいくのかもしれません。


(後半の「Talk Session」の様子)

***イベントレポート一覧***
2017年3月4日開催 「ロボティクス×医療」の”今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter1
元Pepper開発リーダーが作る「人に寄り添い、生活に潤いを与えるロボット」【GROOVE X・林要氏】(前・後編)
日本独自のロボット観が生んだ「コミュニケーションロボット」は医療現場をどう変える?【ロボスタ編集長・望月亮輔氏】
あえて完璧でないものを作る。家族の絆を思い出させてくれるロボット「ここくま」【NTTドコモ・横澤尚一氏】
第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】(前・後編)

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宇山 一朗Ichiro Uyama

藤田保健衛生大学医学部総合消化器外科学 主任教授
藤田保健衛生大学病院総合消化器外科 診療科長

1985年3月に岐阜大学医学部を卒業し、同年4月に慶應義塾大学外科学教室に入局。その後、練馬総合病院外科、国家公務員等共済組合連合会立川病院外科、慶應義塾大学外科学教室助手、練馬総合病院外科医長を経て、1997年に藤田保健衛生大学医学部外科学 講師に就任。准教授を経て、2006年5月に主任教授に就任。2015年9月に藤田保健衛生大学病院 総合消化器外科 診療科長、2016年6月に藤田保健衛生大学医学部総合消化器外科学 主任教授に就任し、現在に至る。2009年に国内初の手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使用した胃がん手術を成功させ、日本における腹腔鏡手術のパイオニアとして、最先端のロボット手術の現場とその普及拡大に取り組む。

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