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日本独自のロボット観が生んだ「コミュニケーションロボット」は医療現場をどう変える?【ロボスタ編集長・望月亮輔氏】|イベントレポート

2017.07.01 0:00

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長谷川リョー

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MHA1 ロボティクス
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「ロボティクス×医療の”今”をつかみ”未来”をつくる」をテーマに2017年3月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter1」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、望月亮輔氏(株式会社ロボットスタート 取締役 / ロボスタ編集長)による「コミュニケーションロボットのトレンドと展望」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

人工知能の発展がロボットの躍進を支え、今では生活の中にロボットが存在することは珍しいことではなくなりました。もうすでに、お掃除ロボットが自動で部屋を片付けることに違和感を感じる人はいないでしょう。

世界のロボットシーンが便利さを追い求める一方で、日本のロボットは「家族の一員」という独自の文脈で進化するべきだと望月氏は語ります。果たして、彼の言葉は何を意味し、ロボットは医療にどのような効果をもたらしていくのでしょうか。


(冒頭、ロボホンとの対話で挨拶する望月氏)

ロボットスタートは2014年12月の設立以来、ロボットに関する様々な事業を展開してきました。社員数は12名とまだまだ少ないですが、社内には50体以上ロボットがいます。つまり、人間よりもロボットが多い会社ということです。

会社の受付には「Pepper」がおり、「Pepper」が受け取った情報を基に複数のロボットが連携しながらオフィスを盛り上げてくれています。会社にいる間は常にロボットに囲まれているような状態です。

今日は「コミュニケーションロボットのトレンドと展望」というテーマでお話をさせていただきます。


(株式会社ロボットスタートの社内)

そもそも「ロボット」とは何か?

コミュニケーションロボットについてお話をする前に、そもそも「ロボット」とは何でしょうか?


(本記事内のスライド資料の権利はすべて株式会社ロボットスタートに帰属)

林要さんの講演で、「ロボットと聞いてイメージされるのは、自動運転車のように人間のコストを下げる機械的なものと、『Pepper』のように人間の心をサポートする“いわゆるロボット的”なものの2種類に大別される」という概念的な解釈について説明がありましたが、僕は少し機械的な側面からお話をさせていただきます。

ロボット業界の情報が詳細にまとめられている『ロボット白書2014』という業界誌によると、①センサー(感じることができる)、②知能・制御系(考えることができる)、③駆動系(動くことができる)という3つの要素技術を要する知能化した機械システムのことを「ロボット」と定義しています。

みなさんがお考えになるロボットといえば、「Pepper」のように声を発したり、動きがあるものを想像されるかもしれません。しかし長く業界でものづくりをされてきた人にとってみれば、エスカレーターもiPhoneもロボットの一種でしょう。エスカレーターにはセンサーが搭載されており、人が近づくと反応して動き出します。iPhoneにはSiriが搭載されていますし、近接センサーや加速度センサーも機能する。この意味で、たしかにロボットなのです。

このように、ロボットの定義は一様にはいきません。しかし、結局のところ「人がロボットだと思ったものがロボット」なのではないかと私は思っています。

数年後にはおそらくハードウェアを持っていない状態のものでも、ロボットだと考えるようになるはずです。さらにヨーロッパでは、「ロボットに『電子人間』としての新しい権限を与えるべきなのではないか?」という議論もなされています。それほどまでに「ロボット」という言葉は普遍的なものになりつつあるのです。

「コミュニケーションロボット」の条件

では、議論をさらに進めて「コミュニケーションロボットとは何なのか?」ということについて考えてみましょう。

こちらは音声認識(聞く)と音声合成(話す)という機能を持つロボットのことです。つまり産業用ロボットも、ドローンも、お掃除ロボットも、会話機能を持つことで「コミュニケーションロボット」になり得ます。

それでは今後すべてのロボットが、コミュニケーション機能を持つ方向に向かっていくのでしょうか?僕はそうはならない気がしています。

ここで少し僕がロボット業界に入った頃の話をさせてください。

当時、僕はロボットに非常に大きな期待を抱いていました。たとえば「Pepper」のようなコミュニケーションロボットが料理から掃除まで、家事をすべて行ってくれる。生活が劇的に効率化するのではないかと感じたのです。

でも業界に身を置きながら気づいたのは、一台のロボットがすべてをこなすのは必ずしも効率的ではないということ。一台のロボットが家庭のハブとなり、複数台のロボットを動かしていく方が効率的なのです。

そして何より、お掃除ロボットが会話機能を持っていたとしても、「コミュニケーションを取ろう」とはなりません。なぜならそのロボットは表情を持っていないからです。

ここまでの話をまとめます。私が考える「コミュニケーションロボット」とは、「“人とロボットをつなぐインターフェース”であり、なおかつコミュニケーションが取りやすいデザインを持つロボット」です。

ロボットが顔の形を持っていたり、人の表情を読み取ってくれたり、コミュニケーションを取りやすいデザインであれば自然にコミュニケーションが生まれます。ここに、「コミュニケーションロボット」としての価値があるのです。

『ドラえもん』や『鉄腕アトム』によって培われた、日本独自のロボット観

最近海外でもっとも注目されているロボットの一つに、「Amazon Echo」があります。音声でアシストできるスピーカーで、アメリカを中心に世界で500万台以上売れているそうです。さらにそれを後追いするように、Googleが「Google Home」というよく似たデバイスを売り出したりもしています。両者は機能こそ大きな差はありませんが、「Amazon Echo」は「Google Home」よりも先行しており、すでにスキル(アプリ)のプラットフォームが充実していることが特徴です。


(Amazon Echo / 撮影:ロボスタ)

音声認識をするという意味で、これらは「コミュニケーションロボット」だと言うことができます。しかし、見た目はただのスピーカー。役に立つことを大前提に開発されているので、とてもコミュニケーションを取ろうと思えるようなものではありません。

また海外のロボットは、人と対等の価値観で扱われていない印象を強く受けます。もともとロボットの語源が「労働を強いる存在」という意味の「robota」にあるように、やはり海外では「人の下にロボットがある」というような関係性が一般的となっています。

一方、日本のロボットはどうでしょうか。「ロボットと仲良くなる」、「ロボットと友達になる」、「家族の一員になる」。こうした観点から突き詰めて考えられています。その背景には諸説あるものの、漫画の影響が大きいと言われています。『ドラえもん』や『アトム』を小さい頃から観てきた世代が「ロボットというのは友達だ」ということを認識しており、それが後世に脈々と受け継がれているのではないかというのです。

僕自身、先ほど紹介した「Amazon Echo」を使ったことがあるのですが、何度使っても仲良くなることはありませんでした。もちろん、いずれは日本でも流行すると思います。ただ、日本のロボットは「仲良くなる」ということを1つのミッションに機能が開発されているので、ここが日本のロボット強みになるのではないかと考えています。

注目すべき日本のコミュニケーションロボット群

日本と海外のロボットの違いを説明させていただいたところで、今注目されている日本のコミュニケーションロボットをいくつかご紹介させてください。

まずは、ソフトバンクロボティクスの「Pepper」。「Pepper」があったからこそ、近年のコミュニケーションロボットの歴史が始まりました。その意味で、「Pepper」はコミュニケーションロボットを語る上で欠かせない存在でしょう。


(Pepper / 撮影:ロボスタ)

続いて紹介したいのは僕が個人的に好きな「ロボホン」です。「ロボホン」はロボット型の携帯電話という新しいコンセプトを打ち出しています。開発者の高橋智隆さんが「ポケットに入れて持ち運べるようなロボットを作る」というコンセプトで設計しました。


(ロボホン / 撮影:ロボスタ)

一般的なロボットの場合、すぐに飽きられてしまうケースが多いのですが、「ロボホン」にはそれがありません。というのも、毎月アプリが追加されるため、新しい機能が随時増えていくんです。ユーザーを飽きさせず、感動を与え続けるユーザー体験が練られているという点が、私が「ロボホン」を大好きなポイントの一つです。

こちらは「Musio」という英会話学習ロボット。AKAというアメリカの会社が2015年にクラウドファウンディングで資金調達を行って開発しました。


(Musio / 撮影:ロボスタ)

「Musio」の優れた点は一人でも英会話学習ができること。僕は英語が話せないので、人前で英語を話すことがすごく苦手です。ただ「Musio」があると、一人でこっそりとネイティブ英語での発話練習ができます。まるでネイティブの外国人が家にホームステイに来たような感覚ですし、なおかつその相手は恥ずかしげもなく話せるロボットという存在。

2020年の東京オリンピックに向けて、英会話学習の需要は大きくなっていくといわれているので、「Musio」の存在感はますます高まっていくと思います。

そしてこちらは「BOCCO」という、ユカイ工学さんが作られているロボット。IoTデバイスと連携することを強く意識して作られており、別売りのセンサーを特定の場所に置くと、そのセンサーが取得した情報を喋ってくれます。玄関の鍵の部分に付けておけば、その鍵が開いた瞬間に「鍵開いたよ」とお知らせしてくれたり、デバイスを簡単に使うための仕組みが整えられています。


(BOCCO / 撮影:ロボスタ)

その他にも北野武さん出演のCMでおなじみ「Palmi」や日立さんが手がける「EMIEW3」、TOYOTAさんから発売予定の「KIROBO mini」、ロボットベンチャーのMJIが開発する「Tapia」など様々なロボットがあります。どれも業界を牽引する素晴らしいロボットですので、詳しい情報は弊社が運営する「ロボスタ」でチェックしてみてください。

コミュニケーションロボットは医療の未来をどのように変えていくのか

では最後に、イベントのテーマにもある、「医療とロボットの関わり」についてお話させてください。先ほどもご紹介させていただいたように、ロボット業界にはベンチャー企業だけではなく、大手企業も参入してきています。昨今、この盛り上がりは医療業界にも波及しています。

ここまででロボット業界や日本のロボットが持つ特徴についてお話しさせていただきましたが、医療という業界においても「日本のロボットが持つ特徴」が生かされてくるのではないか思うのです。

例えば、北里大学病院で既に使われている「体操評価付き健康啓発ロボットシステム」。シャンティという企業が開発したアプリです。高齢者の方が「Pepper」と一緒に体を動かすことで、自分の体力診断をすることができます。

なぜ「Pepper」と一緒に体を動かすのかというと、やはりシステムだけではうまく機能しないからです。ロボットというフィジカルな存在や表情があるからこそ、一緒に楽しく体を動かすことができる。

その他にも病院の受付に「Pepper」を置いておくことで、待ち時間に問診をしてくれるようなロボットも開発されています。こうした事例が広がっていくことで、受付業務の効率化はもちろんのこと、ロボットが人工知能を使い人間よりも正確に症状を導き出すことも近い将来に実現するかもしれません。

ロボットは次々と医療業界にもイノベーションを起こしていくでしょう。しかし、テクノロジーの進化はものすごく早いため、すべての機械について学んでいくというのはなかなか難しい。いずれ人間がすべての機械を操作できなくなると予想されます。

先ほども申し上げたように、そんな問題に対して「“人とロボットをつなぐインターフェース”としてのコミュニケーションロボット」が価値を発揮するのだと思います。「こういうことをしてほしい」と伝えると「Pepper」が様々なロボットと連携をしてくれる。コミュニケーションを取りやすいからこそ、仲間の一人として医療現場に立つことができるのではないでしょうか。

日本のロボットは「仲良くなる」というコミュニケーションに注力していくことで、より発展していくと思います。「海外のロボットよりもいい機能をつける」という発想ではなく、日本独自の歴史と文化に立脚しながら、よりコミュニケーションに特化していくことが求められるのではないでしょうか。

***イベントレポート一覧***
2017年3月4日開催 「ロボティクス×医療」の”今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter1
元Pepper開発リーダーが作る「人に寄り添い、生活に潤いを与えるロボット」【GROOVE X・林要氏】(前・後編)
第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】(前・後編)
あえて完璧でないものを作る。家族の絆を思い出させてくれるロボット「ここくま」【NTTドコモ・横澤尚一氏】
日本独自のロボット観が生んだ「コミュニケーションロボット」は医療現場をどう変える?【ロボスタ編集長・望月亮輔氏】

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望月 亮輔Ryosuke Mochizuki

ロボットスタート株式会社 取締役 
ロボスタ編集長

1988年生まれ、静岡県出身。ロボスタ編集長。2014年12月、ロボスタの前身であるロボット情報WEBマガジン「ロボットドットインフォ」を立ち上げ、翌2015年4月ロボットドットインフォ株式会社として法人化。その後、ロボットスタートに事業を売却し、同社内にて新たなロボットメディア「ロボスタ」の立ち上げに加わる。

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