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超高齢社会の医療に求められる「コミュニティ意識」とは?【日本医療政策機構・宮田俊男氏】|イベントレポート

2017.08.01 14:16

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オバラミツフミ

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MHA2 在宅医療
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「『在宅医療×テクノロジー』の“今”をつかみ“未来”をつくる」をテーマに2017年4月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter2」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、宮田俊男氏(日本医療政策機構 理事/みいクリニック 院長)が手がける「医療現場と政策の両面から見る在宅医療の未来」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

日本は国民の約4人に1人が高齢者という、“超高齢社会”に突入しています。今後ますます医療財源は逼迫し、生産年齢人口が強いられる負担は増す見込み。日本医療政策機構 理事長・宮田俊男氏は、こうした現状を解決するために「病院中心の医療から住まい中心の医療へシフトすべき」だと語ります。宮田氏は在宅医療も行う現役の医師であり、厚労省で法制度の改革に携わった経験を持つ人物です。日本に求められる「適切な医療の形」とはどのようなものなのでしょうか?在宅医療の未来を医療現場と政策の両面から紐解きます。

日本医療政策機構で理事を務めています宮田俊男と申します。私はもともと心臓外科医であり、以前は厚労省にも勤めておりました。現在は在宅医療を行うみいクリニック(代々木)の院長でもあります。他にもかれこれ5年ほど国立がん研究センターの政策室長を務めていたり、医療の側面から自治体に助言もしています。こうして複数の肩書きを持っていると、一口に「在宅医療」といってもさまざまな側面から課題解決の方法や今後のあり方を考えさせられます。

本日のテーマは「医療現場と政策の両面から見る在宅医療の未来」ということで、国政に携わった経験と一医療従事者としての両側面からお話しさせてください。

日本人の「大病院志向」が招く医療の崩壊

ご存知の通り日本は少子高齢社会で、出生率がほぼ横ばいで推移しているのに対し、平均寿命は伸び続けています。要するに、日本は今だかつてない“超高齢社会”へと突入しているのです。

生まれてから死ぬまでに1人当たりおよそ少なくとも3,000万円程度の医療費を要するとされ、その半分以上は70歳を超えてから使うといわれています。また政府の推計によると、2050年には1人の高齢者を1人の働き手が支えなければならなくなると予想されています。高齢化社会が深刻になればなるほど、生産年齢人口の負担が増えていくのは自明のことです。

さらに、日本人の「大病院志向」がこの問題に拍車をかけています。日本には受診する医療機関を自由に選べる「フリーアクセス」制度があります。患者の多くは自身の健康状態や医療に関する詳しい情報を把握していないため、軽症であるにもかかわらず高機能の大病院を受診する傾向が強いのです。

大病院に患者が集中した結果、勤務医の疲弊は増すばかり。限られた医療資源の適切な活用方法を考えた場合、日本の医療制度には課題が多いと言わざるを得ません。従来の「病院中心・医者中心」の医療から、「家庭中心・患者さん中心」へと変革していくことが求められています。

そこで、私は日本の医療の歪みを正すために厚労省に転職しました。政策を変えなければ日本の医療は良くならないと考えたからです。

医者に頼り過ぎず、自分で医療を選択できる社会へ

医療機関を自由に選べる日本と対照的なのがイギリスです。イギリスでは、「General Practitioner(一般開業医)」と呼ばれる各地域に密着した医師の診察を経なければ、専門医のいる大病院で診察を受けることができません。

イギリスほど厳しい制約は設けないにせよ、日本でも大病院の資源を合理的に配分できるようフリーアクセスは緩やかに制限されつつあります。大病院で初診を受けると、比較的高額な医療費が必要になる仕組みです。

このように、現在日本では適切な医療を実現するための動きが加速化しています。そのなかでも現在注目されているのが、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを送るための「地域包括ケアシステム」です。

日本は世界でも類をみないほど高齢化が深刻化しているので、今後患者の数に対して医者が不足するのは自明です。特に大病院は医療資源が限られてるので、大病院を受診する傾向を低くするため、患者が適切な医療を自ら判断できるよう支援することが求められます。病気が重症化して初めて診察を受けるようでは、医療資源が適切に配分されないのです。

地域包括ケアシステムは、高齢化に伴う介護・医療を取り巻く問題を地域が主体となって解決していくことを目指します。自治体が「定期健診が必要なら連絡する」「定期的な介護が必要なら介護サービスを行う」といった適切な支援を促すことで、病院中心だった医療を住まい中心に、医者中心だった医療を患者中心にシフトさせるのです。

他にも、こうした医療の最適化を図る政策の一つに「保健医療2035」があります。世界各国で急速に広まる、検査や治療の選択において必要性を的確に吟味し、無駄を控える取り組み「Choosing Wisely(賢い選択)」を日本にも取り入れようというものです。

患者にとって最適な医療への道を開く「ゲートオープナー」機能を持つかかりつけ医を10年程度で全国に配置するなどして、最適な医療を患者に提供し、医療の質を高めることが決定しています。

以上のように、すべての選択を医者に頼りがちだった医療を個人が自分自身で考えられるよう支援する動きが活発になっています。個人の健康意識が高まれば、健康寿命と平均寿命の差が少なくなり医療費を適正化できるからです。

データで健康状態を可視化、官民一体で「在宅中心の医療」を目指す

高齢者の健康をサポートする取り組みとして、行政と民間企業の連携も始まっています。具体的な例でいえば、藤沢市とNTT docomo、SOMPOケアネクストが連携して行う「未病改善サポートシステム」です。

老人ホームに居住する高齢者の生活データ(睡眠状態や娼婦カロリー)やバイタルデータ(血圧や体重)を計測し、一人ひとりの健康状態をチェック。スマートフォンを通じてデータをシステムに蓄積・分析することで、健康状態の変化を可視化します。健康状態に変化があれば、最適な健康改善法を介護職員に提案し、未病の改善をサポートします。現在は実験段階ですが、実用化が進めば簡単かつ効果的なケアシステムを構築できるようになるでしょう。

私が院長を務めるみいクリニックでも 、docomoと連携して在宅医療の質向上に向けた取り組みを進めています。これまでは月に2回自宅へ訪問する形で在宅医療を行っていましたが、この方式だと次回診察までの間隔が空きすぎて、患者の健康状態の変化に気付きにくい状態でした。そこで患者さんのご自宅にタブレット端末を設置し、血圧の推移や体温、睡眠時間などのデータを記録することにしたんです。

すると日々の健康状態がデータとして可視化されるようになり、ちょっとした体調の変化に気付きやすくなりました。万が一のケースを防げるだけではなく、効率的に診察を行えるのも大きな利点です。何より患者さん自身が自分の健康状態を知るきっかけになり、健康意識の向上につながります。

医療システムの改革に求められる“強いコミュニティ意識”

個人の健康意識を高めるためにOTC薬品(処方箋なしで購入できる医薬品)を利用したセルフメディケーション支援も行っています。「体調が悪くなったら病院へ行き、処方された薬を薬局で購入する」だけでは個人の健康意識が向上しないからです。しかし、自分の疾患を判断することはなかなか難しく、薬を購入する薬局でも薬剤師が病気を診断できないのが現状です。

そこで制作したのが、症状を入力するとOTC薬品選びを支援してくれるアプリ。医師、薬剤師が中心となり開発しているため、ユーザーの安心を担保しながらセルフメディケーションを支援することができます。

今後、多職種における情報共有システムや遠隔医療を行えるテクノロジーが普及し、アプリを利用してセルフメディケーションを行うような習慣が日常的になってはじめて、目指すべき地域包括システムが完成に近づくといえます。

そのためにも政府は政策を作って終わりではなく、現場と協働して医療制度の改革を行っていく必要があります。オープンイノベーションによって新しい医療をより身近なものにしていかなければなりません。

現場の医師たちも医療を効率化する新しい技術に積極的に触れ、国民も正しくあるべき医療の姿に理解を示すべきです。こうしてそれぞれが強いコミュニティ意識を持って相互に歩み寄ることで、目指すべき医療の形が実現すると思います。

***イベントレポート一覧***
2017年4月22日開催 「在宅医療×テクノロジー」の“今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter2
“第4次産業革命”は超高齢社会をどう変えるのか?人工知能×ビッグデータが変える介護の未来【デジタルセンセーション・石山洸氏】
地方で働くドクターが考える“医療現場とテクノロジーの隔たり” 【やまと在宅診療所院長・田上佑輔氏】
医療制度の崩壊を「在宅医療」が食い止める。在宅医療の牽引者たちが“超高齢社会”の未来を語る(トークセッション)

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宮田 俊男Toshio Miyata

日本医療政策機構 理事
みいクリニック 院長、Medical Compass CEO

1999年、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。2003年、大阪大学医学部医学科卒業後、市中病院等を経て大阪大学医学部附属病院等で心臓外科医として心臓血管手術や人工心臓、再生医療に従事。
2009 年8月 、厚生労働省に入省。現場を知る行政官として薬機法、再生医療新法、税・社会保障の一体改革、チーム医療の推進策、東日本大震災の復興、臨床研究予算の増額、治験業務の大幅な簡素化をはじめ数々の改革を企画。2013年9月より日本医療政策機構に参画し、エグゼクティブディレクターおよび医療政策ユニット長に就任。日本健康会議の実行委員も務めている。
その他、神奈川県庁顧問、国立がん研究センター政策室長、大阪大学医学部招聘教授、同産学連携本部特任教授、京都大学産学官連携本部客員教授などを兼任。ベンチャー企業や医療機関の経営戦略支援にも尽力。
2015年12月、メドピア株式会社社外取締役に就任。

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